長生きリスクへの備えとして、老後資金と合わせて考えなくてはならないのが、将来起こりうる病気やケガのリスクです。
日本には医療費を国が負担してくれる公的保障制度がありますが、すべての病気にかかる費用をカバーしてくれる訳ではありません。
ここでは、本当に必要な医療保障はなにか、最適な保障額はどれくらいなのか考えていきましょう。
公的医療保障制度とは
日本の医療保険制度では、私たちが病気やケガで病院や薬局へ行った際に窓口で支払う負担額は3割、高齢者は1~2割となっています。しかし、3割ほどの負担でも、手術や入院日数によっては高額な支払いを余儀なくされる場合があります。
高額療養費制度とは
「高額療養費制度」は、高額になってしまった医療費の負担額を減らすことができる制度です。1カ月(1日から月末までの暦月)の医療負担が高額になってしまった際に、自己負担限度額を超えた額を払い戻してくれます。
世帯合算もできますが、所得によって負担限度額が違う点は確認しておきましょう。
高額医療保険制度の対象にならないケース
高額になった医療費の負担を減らす「高額療養費制度」ですが、以下のように、一般的な診療ではない場合に使えないケースもあります。
- 先進医療の技術料
- 差額ベッド代
- 入院中の食費代の一部
- 自然分娩による出産
- 美容にかかる歯科治療 など
先進医療とは
先進医療とは、一般的な診療を超えた高度な医療技術を用いた治療です。
先進医療を受けた場合、診察・検査・投薬・入院料などについては、公的医療保険制度(高額療養費含む)の対象となりますが、先進医療の「技術料」については、公的医療保険制度の対象外となるため、全額が自己負担となります。
ただし、高度な治療がすべて先進医療という訳ではなく、厚生労働省に医療機関が届け出をしていないと「先進医療」として認められず適用にはなりません。
現在、厚生労働省が認めている先進医療は83種類です。先進医療の費用は少額なものから高額なものまで先進医療技術や医療機関によって異なります。
実施件数が多かった先進医療の費用は次のとおりです。
差額ベッド代とは
差額ベッド代は、正式には「特別療養環境室」にかかる費用です。
1人の個室から4人部屋まで以下の条件を満たすことで大部屋との差額ベッド代が請求されます。
- 1病室の病床数が4床以下
- 病床の面積が1人当たり6.4平方メートル以上
- 病床ごとにプライバシーの確保を図るための設備を備えている
- 患者個人用の収納設備や、机、いす、照明の設置 している
1日当たりの差額ベッド代(平均)
先進医療が必要な病気で入院した場合や、大部屋以外で病室を希望された場合には、医療費の負担はそれだけ重くなります。
入院にかかる自己負担費用
では実際に入院した場合はどのくらい医療費がかかるのでしょうか。
これには治療費・食事代・差額ベッド代、交通費(見舞いに来る家族の交通費も含む)や 衣類、日用品などを含んでいます。
1日あたりの入院自己負担費用もみていきましょう。
平均の入院自己負担費用は、1日あたり約2.3万円となっていますが、以下のグラフのように10,000円~15,000円未満が約24%で最も多くなっています。
*治療費・食事代・差額ベッド代に加え、交通費(見舞いに来る家族の交通費も含む)や衣類、日用品などを含む。高額療養費制度を利用した場合は利用後の金額
傷病別の入院日数
また、病気やケガの種類によって入院日数は異なってきます。厚生労働省が調査した傷病別の入院日数をみていきましょう。
傷病の種類だけでなく、年齢や性別によっても入院日数は異なってきます。一般に高齢になるほど、また女性の方が入院日数は長くなる傾向があります。
必要な医療保障(医療保険)はいくら?
医療費の総額としては高額であっても、公的医療保険による3割の自己負担や「高額療養費制度」を利用すれば、自分が実際に支払う費用はかなり抑えられます。
しかし、より高度な治療を希望する場合、たとえば先進医療の技術料が300万円程度かかるケースもあり、また未承認の抗がん剤治療なども自由診療となるため全額自己負担となります。
医療費の平均自己負担額のデータ、現在の貯蓄などを参考にしながら、病気やケガの備えに必要な金額を考えてみるとよいでしょう。
執筆:2021年12月