- 個人事業主と会社員での保険選びの違いを知りたい方
- 個人事業主だからこそ必要な備えは何かを知りたい方
- 自分に合った保険の選び方を知りたい方
- 個人事業主に傷病手当金はない。年金も基礎年金のみだから、保険でカバーが必要。
- 個人事業主はまず働けなくなった時のリスクに備えよう。検討すべきは保険とは?
- 老後と万が一の備えも必要。定期死亡保険やiDeCoの選び方。
こんにちは!ファイナンシャル・プランナーの長谷部敦子です。
今回は、家計相談・個人事業主いずれも8年以上のファイナンシャル・プランナーが、個人事業主だからこそ備えておきたいリスクや、自分に合ったリスクへの備え方についてお伝えします。
働き方によって守られ方がまったく違う「社会保険」についても解説しているので、個人事業主の方はもちろん、今後、個人で働くことを考えている会社員の方もぜひご覧ください。
家族の看取り介護を経験したことをきっかけに、お金の知識の必要性を感じてFPの道へ。
自身もお金に苦手意識があったからこそ、社会保障や税の仕組みといった、難しく感じがちなことのわかりやすい解説が大変好評。
情報メディアへの執筆、セミナー講師の実績多数。手間なくお金の不安を減らす家計の見える化・仕組み化のサポートが得意。
個人事業主と会社員で大きく違う社会保険
個人事業主が特に備えておきたいことを考える上で、まず知っておきたいのが社会保険についてです。
個人事業主と会社員の社会保険には以下のような違いがあります。
保障 | 個人事業主 | 会社員 |
---|---|---|
健康保険 | 国民健康保険 | 健康保険組合や協会けんぽ |
公的年金 | 国民年金(基礎年金) | 国民年金(基礎年金)+厚生年金 |
労災保険 | × | ○ |
雇用保険 | × | ○ |
また、労災保険や雇用保険への加入も基本的にはできないので、ケガや病気で働けなくなったときの公的保障もありません。
個人事業主は会社員と比べて社会保障が手薄だからこそ、自分でしっかりとリスクに備える必要があります。
特に個人事業主が備えるべきリスクは以下の3つ。
- 働けなくなった時の備え
- 老後への備え
- 万が一の時の家族への備え
次からは、具体的な備え方についてひとつひとつみていきましょう。
個人事業主が働けなくなった時に備えるには?
個人事業主がまず考えておきたいのが「働けなくなった時」の備えです。
個人事業主には働けなくなった時は、どんな公的保障があるのでしょうか?
個人事業主は傷病手当金を受給できない
ただし、個人事業主が加入する「国民健康保険」には傷病手当金の制度がないため、病気やケガで働けなくなっても受給することができません。
傷病手当金と同様、病気やケガによって、生活や仕事などが制限されるようになった場合に給付金を受け取れますが、個人事業主の場合は会社員と異なり、受給の制限があります。
以下は、その制限を障害の程度別に、個人事業主と会社員でそれぞれ比較した表です。
障害の程度 | 個人事業主(国民年金のみに加入) | 会社員(国民年金+厚生年金に加入) |
---|---|---|
1級 | 1級の障害基礎年金 | 1級の障害基礎年金+1級の障害厚生年金 |
2級 | 2級の障害基礎年金 | 2級の障害基礎年金+2級の障害厚生年金 |
3級 | ー | 3級の障害厚生年金 |
3級より軽症 | ー | 障害手当金(一時金) |
表をみると、個人事業主が受給できるのは、障害の程度が1級または2級の「障害基礎年金」のみで、3級および3級より軽症の場合は受給できないことがわかります。
以上のように、個人事業主が働けなくなった時の公的な保障は、非常に手薄だと言わざるを得ません。
すぐに収入が途切れてしまい、生活と事業の両方が立ち行かなくなる可能性もあります。
個人事業主が「働けなくなるリスク」に備えるためには、以下の2つの保険をチェックしておきたいところです。
「働けない」に備えるには、就業不能保険と所得補償保険
就業不能状態になった場合、要件を満たすと毎月給付金を受け取れます。入院だけではなく、医師の指示による在宅療養も保障されるので、個人事業主に必要性の高い保険といえます。
保険商品によって違いはありますが、2つの保険の主な特徴を以下にまとめました。
就業不能保険 | 所得補償保険 | |
---|---|---|
保険会社 | 生命保険会社 | 損害保険会社 |
保険金額 | 10~50万(上限あり) | 前年所得の50%~70% |
免責期間 | 60日・180日が一般的 | 7日など短期間 |
保障期間 | 長期(65歳まで、など) | 短期(2年など) |
長期的に働けない場合への備えに強いのが就業不能保険、短期的(一時的)に働けない場合への備えに強いのが所得補償保険といえます。
また、本来であれば個人事業主は加入できない労災保険ですが、要件を満たせば労災保険の特別加入制度を活用できます。
労災保険に加入すれば、仕事中のケガや病気に対して療養給付や休業給付などを受けることができますので、ご自身が要件を満たすかどうかを確認した上で民間保険への加入を検討しましょう。
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次に、保険に加入する際、どのように選べばいいのかについて考えます。
就業不能保険と所得補償保険はカバーできる期間が違う
働けなくなった時にすぐに収入が途絶えてしまう個人事業主の場合、貯蓄でカバーできないのであればすぐに保障が必要になります。
ただし、経済的なリスクが大きいのは長期的に働けなくなった場合です。長期的な保障には就業不能保険でカバーしましょう。
現在の貯蓄や必要となる生活費・事業費用に合わせて、就業不能保険・所得補償保険をうまく使い分け、もしくは併用することで、働けなくなった時に備えられます。
また、就業不能状態というのは、各保険会社によって定義が異なります。精神疾患が対象となるものとならいものもあるので、免責期間とあわせて加入前にしっかりと条件を確認するとよいでしょう。
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続いて、個人事業主が老後の生活に備えるためのポイントをみていきましょう。
個人事業主が老後の生活に備えるには?
まずは老後の生活のベースとなる老齢年金の受給額から確認してみましょう。
個人事業主は老齢年金受給額が少ない
個人事業主と会社員では、受け取れる老齢年金には大きな違いがあります。以下のように、個人事業主には「老齢厚生年金」がありません。
- 個人事業主:老齢基礎年金のみ
- 会社員:老齢基礎年金+老齢厚生年金
「老齢厚生年金」の分だけ、個人事業主が受け取る年金は少ないことがわかります。続いて実際のデータをみながら確認してみましょう。
2021年度(令和3年度)の老齢給付の受給者平均年金月額(=毎月受け取っている年金の平均額)のデータをもとに、個人事業主と会社員を比較すると、以下の通りです。
- 個人事業主:5万6,479円
- 会社員:14万5,665円
平均額を比べてみても、個人事業主の方が約9万円少ない(会社員14万5,665円 – 個人事業主5万6,479円 = 8万9,186円)ことがわかります。
また、仮に20歳から60歳になるまですべての月で保険料を納めると、個人事業主が受け取る老齢基礎年金は満額を受け取ることができますが、その額は2022年度(令和4年度)で年額77万7,800円(月額6万4,816円)です。
夫婦ともに個人事業主(国民年金)の場合、満額を受給できたとしても2人で月額約13万円(6万4,816円 × 2 = 12万9,632円)となります。
老後の生活を老齢基礎年金のみでカバーするのは難しいことがわかります。
iDeCo(イデコ)と個人金保険で老後に備える
個人事業主が老後の資金づくりに活用できるのが「iDeCo」と「個人年金保険」です。
それぞれのメリット・デメリットは以下の通りです。
iDeCo | 個人年金保険 | |
---|---|---|
メリット | ・掛金が全額所得控除 ・運用益非課税 ・受取時に税制優遇あり | ・個人年金保険料控除が使える ・将来の受取額がわかりやすい ・中途解約可 |
デメリット | ・60歳になるまで引き出せない ・元本割れの可能性あり ・受取時に税制面の知識が必要 | ・インフレに弱い ・中途解約の場合、元本割れの可能性あり |
それぞれにメリット・デメリットがある「iDeCo」と「個人年金保険」。どのように選べばいいのでしょうか。
iDeCoと個人年金保険はリスク許容度で選ぶ
iDeCoに向いている方は以下のような方です。
- リスクをある程度許容できる方
- 運用スタイルを自分で決めたい方
- 一定の貯蓄がある方
元本保証はありませんが、リスクを許容した上で個人年金保険以上のリターンを期待できます。
一方、個人年金保険に向いている方は以下のような方です。
- 確実に老後資金を貯めたい方
- 万が一の時には解約できるようにしたい方
- 金融商品について詳しくない方
個人年金保険は保険会社が運用をしてくれるので、自分で運用する金融商品を選ぶ必要がありません。
iDeCoの元本割れや個人年金保険の利率の低さといったリスクを最小限に抑えるために、2つを併用することも可能です。
併用する場合は、管理が煩雑になりがちなこと、まとめて運用するよりも利益が少なくなる可能性があることには注意が必要です。
最後に、個人事業主に万が一のことがあった時に、遺された家族の生活を守るにはどうしたらいいかをみていきましょう。
個人事業主が万が一の時の家族へ備えるには?
個人事業主は遺族年金が受給できないことも
ただし、個人事業主が加入している国民年金で受け取れるのは「遺族基礎年金」のみです。
遺族基礎年金を受給できるのは、
- 18歳まで※の子どもがいる配偶者
- 子ども(18歳まで※)
となっています。(※一定の障害がある場合は20歳)
つまり、子どもがいない配偶者や子どもが大きくなっている場合、個人事業主が亡くなった時に遺族年金を受け取ることができません。
遺族基礎年金受給の要件を満たした場合の、受給額は以下の通りです。
▼以下は加算額
子どもが1人の場合は年間約100万円(77万8,800円+22万3,800円 = 100万2,600円)、2人の場合は年間約120万円(77万8,800円+22万3,800円+22万3,800円 = 122万6,400円)を受け取れます。
しかし、上記の遺族基礎年金が受け取れたとしても、これだけでは遺された家族が安心して暮らすことはできません。
定期死亡保険や収入保障保険で家族の暮らしを守る
定期死亡保険と収入保障保険は保険金の受け取り方で選ぶ
葬儀代や子どもの教育費などまとまった額が必要なものは、一括して保険金を受け取れる定期死亡保険が適しています。
一方、長期間にわたって必要になる日々の生活費は収入保障保険が適しています。
一括でまとまった保険金を受け取ると、遺された家族が管理する負担も大きくなりがちですが、一定額を毎月受け取れる収入保障保険を選ぶことで、その負担も減らせます。
なかには掛け捨て保険に抵抗がある方もいらっしゃるかもしれません。
貯蓄性のある終身保険もありますが、個人事業主の場合、会社員と比べて自分で備える必要のある額が大きいため、なるべく保険料を抑える必要があります。
万が一のときに備えるお金と貯めるお金はわけて考え、なるべく保険料を抑えることを優先させましょう。
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まとめ
個人事業主は会社員と比べて傷病手当金がない、労災保険や雇用保険に加入できない、年金は基礎年金のみなど、社会保障が非常に手薄です。その分、しっかりと自分で備えなくてはいけません。
特に緊急性が高いのは、働けなくなった時への備えです。個人事業主は収入が途絶えるとすぐに生活に影響するので、まずはそこから備えを見直してみましょう。
備えはついつい後回しにしてしまいがちですが、安心して事業に集中するために、そして、大切な家族を守るために、一度必要な備えについて考えてみてくださいね。
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